暗示学とは
暗示学とは
暗示学のドアをあけると、最初に眼にするのが「観念」である。
観念とは、ある対象に対して自分が抱いているイメージのこと。これは潜在意識の領域にあり、無意識に浮かんでくる。
たとえば、性格もそう。「自分は明るい」とか「自分は勝負強い」とかいう、無意識に抱いている自己イメージが性格の根源なのである。
これは、結局体験とか親などの言葉が影響した後天的なもの。性格はまったく後天的なものである。
その証拠に、威張り腐って横柄だった国会議員が、選挙に負けた途端負け犬のようにおとなしく、かついじけていることがある。
それは、自分が抱いている自己イメージ、つまり自分に対する観念が変わったからである。
その観念(他人の観念)を、他動的に変えてしまうのが暗示技術であり、拙著『リーダーの暗示学』に詳しく説明しているところである。
しかし、この技術においては、多くの場合、相手の否定的な観念を崩すことを考えるのが効果的である。
相手が失敗してめげているとき、よく「お前は本当はできるんだ」と励ます人がいある。しかし、こう言ってもうまくいかないことが多い。
それは、相手が自分自身のことを「ダメな人間」と思い込んでいて、その観念を真っ向から否定する言葉に出会っても、受け入れられないからである。
「頑張れ」と励ましても同じような効果しか発揮しない。これも相手の観念と対立しているからだ。
両手段とも、言ってみれば、相手の観念を壊そうとするからダメなのだ。
では、どうしたらよいか。全面的に壊そうとせず、相手の観念の一角を壊そうとすることがよいのである。
「君は自分がダメだと言っているが、でも先日はこれこれの件でうまくやったことがあるではないか」
うまく成功した件が、実際には百のうち一つでもよいのである。とにかく、相手の観念の一角を壊せばよいのである。
観念の一角を壊す程度であれば、相手はこちらの言葉を受け入れられる。こうして、リーダーの暗示の道が開かれる。
不思議にも、相手の観念の一角が壊れると、やがて全体が壊れる。このあたりが、人間心理の奇妙なところである。
観念の理解が少し身についてくると、人間の言動や行動がイメージの世界で成り立っているのが実感できてきます。
この観念にどうやって影響を与えるかが上級者の主眼になってきます。
すると、妙な感じがしてくる。
人間は、人間どおしが交わす言葉に頼っているわけですが、それはいわば地べたを這って伝わってくる電話のようなもので、実際に人間行動に大きく影響しているのは、イメージの世界であり、空を飛ぶ電波のようなものに思えてくるわけです。
二人の激しい対談は、地上の言葉で行なわれているのではなく、実は空中というか脳中でのイメージ戦争だということです。
暗示をかけるとは、相手にイメージを浮かばせること
暗示力などというと、催眠術を使うようにして何かを思い込ませてしまう、といったことを思い浮かべる方がいるかもしれません。
私がいう暗示力というのはそういうものではなく、もっとシンプルなものです。
どんなことかは、例を見ていただいた方がよいでしょう。
以下は、NBonline 梶原茂の「プロのしゃべりのテクニック:【12】ジャパネットたかたの本当のすごさ」(6月19日)の引用です。
ジャパネットたかたの高田明社長が「大型液晶テレビ」を紹介しているさいの内容です。
「(あの、独特の声の調子を思い浮かべて)
「大型液晶テレビ。画面が大きいんです。画面が大きいと、家族みんなで見られるんです。皆さん! これまで小さなテレビを別々の部屋で見ていませんでしたか? この大画面液晶テレビ! 大きいですから居間に置きますね。くっきりはっきり大型、大画面液晶(高田社長はあえて同じ言葉を何度も繰り返すのが特徴)。家族みんなで見たいですね。お父さんも、お母さんも、お子さんたちも、おじいちゃんも、おばあちゃんも。どうです。家族が1つになって、1つの液晶大画面を見る。昔みたいな家族だんらんが戻ってくるんです」
梶原氏はこう解説しています。
「高田社長は、商品の性能を細かく説明するより、その商品を購入することで、一家にどんな幸せが訪れるかをイメージさせることに心を砕くのが常だ。
『家族だんらんかあ。懐かしいなあ。ばあさん、わしの年金の積み立てで買ってもいいかなあ』
あのハイトーン、ハイスピード、長崎なまりもすごいけど、高田社長が本当に優れているのは「幸せのイメージを伝える力」なのだ 」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nba/20080611/161788/?P=1
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最近では、「テレビは一人で見るもの」から「居間で大型画面を家族で見る」という新しいライフスタイルも出現し始めているそうです。
テレビは一人で見るものだったのか。私は遅れているようです。
それはともかく、梶原氏が指摘するように、ジャパネットたかたの社長さんのイメージを思い浮かべさせる能力はたいしたものです。これが私のいう暗示力なんです。
人間は、耳で聞いた言葉からイメージを思い浮かべる。そのイメージこそが、人間の行動力のもとになるのです。そこで、イメージを意図的に浮かべさせることを暗示といいます。
昔の人もそういうことは一生懸命考えていた。
能の中興の祖である世阿弥は、人間の癖を巧妙に取り入れています。「先聞後見(せんもんごけん)」です。
能では、まず言葉を耳に聞かせ、しかるのちにそれに応じる仕草をして見せる。
たとえば、泣くような場面。まず「泣く」という言葉をはっきり聞かせておいて、それから袖で顔をぬぐうような仕草をする。これが効果的だと世阿弥は言います。
「泣く」と聞いて観客にイメージがわき、そのイメージと演者の仕草が一致するので、観客は心地よいわけです。
これを、逆にして、「悲しい仕草」をしてから、「泣く」と聴いても、言葉があとに取り残される、と世阿弥は言う。
言葉を用いるというのはなかなか難しいものですね。
高田社長の場合は、前段で居間に大型液晶テレビを置くと言っています。これで、居間におけるテレビのイメージが視聴者に浮かぶ。
そのあと、家族のだんらんに話がいく。そこで、「大型液晶テレビと一家団欒のイメージ」がつながります。
そして最後に液晶テレビが映し出されて、セールス・トークになるという仕組み。
きっと、こういうような流れで、視聴者のイメージをうまく喚起し、コントロールしているのでしょう。
もちろん、私が思いつかないようなもっと高度なテクニックを高田社長は駆使して、イメージを喚起させているのでしょう。そのあたりの研究は、ビジネスにおいてもなかなか使える技術だと思いますね。
もう大昔の話ですが、あるアメリカのデパートが、中級品のピアノ在庫を大量に抱えて大弱りしていました。
「甘美なトーン」とか「破格のお値段」といった、お決まりの広告を打っても、さっぱり売れません。
ところが、ある朝の広告で、一日で在庫がなくなってしまったそうです。どんな広告だったのか。それは、
「あなたのお嬢様をレディーにする!」
家庭教育に眼のない中流婦人に、子供がピアノをひくことの意味を訴えて、その心をしっかり捕らえてしまったのです。
何を所有するかではなく、それを所有することでどんな才能が開花するか、どういう人間になれるか、ということにみんな関心がある。そこを、うまく暗示したということです。
皆さんも、是非応用してみてください。
自分で言うのもなんですが、参考文献は私の『リーダーの暗示学』がもっともよい。
リーダーの暗示学:詳細はこちらから
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